概要
JRAの2023年リーディングサイアーに関する一考察である。過去10年にわたるリーディングサイアーランキングの変遷とともに今年のランキングの意味合いおよび来年以降のトレンドについて考察した。
背景と目的
2022年もJRA全レースが終了し、リーディングサイアーランキングが確定した。本記事では、過去10年にわたるランキング変遷とともに今年のランキングの意味合いと今後のトレンドについて考察する。
詳細
1. 2023年リーディングサイアーランキング
以下は、2023年リーディングサイアーランキング上位10傑。
順位 | 馬名 | 勝馬率 | EI | 賞金[億円] | 代表馬 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ドゥラメンテ | 0.279 | 2.12 | 41.7 | リバティアイランド |
2 | ロードカナロア | 0.28 | 1.43 | 39.3 | ファストフォース |
3 | ディープインパクト | 0.314 | 2.34 | 32.4 | ジャスティンパレス |
4 | キズナ | 0.353 | 1.59 | 32.2 | ソングライン |
5 | ハーツクライ | 0.279 | 1.84 | 31.7 | ドウデュース |
6 | キタサンブラック | 0.417 | 2.91 | 27.9 | イクイノックス |
7 | モーリス | 0.295 | 1.41 | 25.5 | ジャックドール |
8 | ハービンジャー | 0.273 | 1.38 | 20.3 | ナミュール |
9 | エピファネイア | 0.253 | 0.89 | 19.5 | ジャスティンカフェ |
10 | ルーラーシップ | 0.251 | 1.01 | 19.4 | ソウルラッシュ |
- 1位はドゥラメンテ。昨年書いた展望で、3位に食い込むかもと書いたがそれを上回ってきた。リバティアイランドの稼ぎを差し引いたとしても3位のディープインパクトよりも上位なので、卓越した種牡馬能力であることがまさに明らかになった。
- 2位は予想通りロードカナロア。勝ち数はトップで、出来不出来が少ない安定した仔が多いということだろう。
- 3位ディープインパクトは産駒が減り勝ち数がロードカナロアの約半分にもかかわらずこの順位は相変わらず凄いというしかない。
- 4位キズナは、順位変わらず。勝馬率もここ数年ほぼ同様の値で安定していて、仔の質がそろっているといえる。
- 5位はハーツクライは昨年から順位は落ちたがディープインパクトと同様に安定している。
- 6位キタサンブラックは、昨年10位前後に食い込むと予想したが、その予想を上回った。イクイノックスが高額賞金レースを勝った影響もあるので順位は単純評価できるかはわからないが、年度勝馬率が4割超えと非常に高く、仔の能力の平均値が高いのは間違いない。
- 7位モーリスは、昨年から1ランク上昇。勝ち馬率が昨年と同じで、安定タイプといえる。
- 8位ハービンジャーは、2020年から2022年にトップ10を外していたが復帰した。勝ち馬率も戻った。当馬の体調や繁殖牝馬の質など年度ごとにばらつく要因があるのかもしれない。
- 9位エピファネイアは昨年と順位内容とも変わらず。デアリングタクト以来、大物はいないが堅実ということだろう。
- 10位ルーラーシップは昨年よりも後退したが、この順位前後は差が少ないので入れ替わりは仕方ない。勝馬率は改善している。
2. 過去10年間の変遷
図2は、過去10年のリーディングサイアーランキングの変遷である。
ついに、産駒数が減ったディープインパクトが首位から陥落し3位になった。リバティアイランドの活躍もあるがドゥラメンテがトップになった。ロードカナロア、キズナ、ハーツクライ、ルーラーシップ、モーリスは安定した勢力を形成している。新しい世代としてキタサンブラックが台頭してきている。ダイワメジャーもついにトップ10から消えてしまい、サンデーサイレンス直仔の種牡馬から、その仔、キングカメハメハの仔の世代に徐々に移り変わってきていることがわかる。
3. 今後の展望
前節までを踏まえてここでは今後の展望を行ってみたい。
3.1 トップ10展望
- リーディングは、ドゥラメンテと思われる。種牡馬能力は素晴らしいものがある。2024年デビューが最後の世代となるが、2020年の活躍を見てそれなりの繁殖牝馬の質がそろっているものと思われるので、出走馬数が維持できる2024年までは活躍が継続すると考えられる。
- 2-4位はロードカナロア、キズナという今成績が非常に安定している常連に、勝馬率が非常に優れるキタサンブラックが加わるだろう。ただし、イクイノックスの様な大物とまでいかなくてもそれなりの産駒が出てくる必要はあるが。
- 5-7位グループには、ドレフォンが食い込んでくる。大物は望みにくいが、かつてのジェイドロバリーのようなイメージ。モーリス、ハーツクライはポジションを維持する。
- 10位前後グループには、シルバーステートが食い込めるか。他は常連がある程度維持すると思われる。ディープインパクトは、産駒数が非常に少ない最終世代が4歳となるため、サンデーサイレンス等過去の傾向から考えるとトップ10付近の維持は厳しいと言わざるを得ないだろう。
順位 | 馬名 | コメント |
---|---|---|
1位グループ | ドゥラメンテ | 2024年までは維持できそう |
2-4位グループ | ロードカナロア、キズナ、キタサンブラック | キタサンが食い込むか |
5-7位グループ | モーリス、ハーツクライ、ドレフォン | 混戦 |
10位前後グループ | エピファネイア、ルーラーシップ、ヘニーヒューズ、シルバーステート、ハービンジャー | リアルスティール、サトノクラウンらも絡んでこれると将来が明るい |
新興勢力 | スワーヴリチャード、レイデオロ、ニューイヤーズデイ、ブリックスアンドモルタル |
3.2 新興勢力
以前から毎年書いている通り、初年度100位以内であることが、将来のトップ10の目安である。特に、50位以内は、トップ10どころかリーディングを狙う器ともいえる。2022年該当馬の2022年→2023年順位変化は、マインドユアビスケッツ(73位→46位)、リアルスティール(72位→24位)、サトノダイヤモンド(86位→33位)、サトノクラウン(92位→25位)で例年同様20-40位台まで上がる傾向である。2023年初年度新種牡馬で該当するのは、スワーヴリチャード45位、レイデオロ87位、ニューイヤーズデイ80位、ブリックスアンドモルタル72位がいる。これらは今後数年でトップ10に顔を出す可能性が十分あり、特にスワーブリチャードはトップ10の中でも上位争いをすることになるだろう。
余談
ドゥラメンテのような父母とも国内で調教されて活躍した馬の仔がリーディングサイアーを取るというのは、サンデーサイレンス直仔の内国産種牡馬ディープインパクトが10年以上連続でリーディングを取ったことと並んで、日本競馬界にとって大きな意味があると感じる。1990年代までは、いわゆる内国産種牡馬で系統が繋がるのは非常に限られたことだった。90年代のサンデーサイレンス、トニービン、ブライアンズタイムという御三家種牡馬の産駒がデビューし、それぞれが初年度産駒でダービー馬、オークス馬を出すという外国産種牡馬の威力をまざまざと見せつけられ続けていた頃に競馬を見始めた者としては、この約30年間で変わったなあとしみじみ実感する。
まとめと今後の課題
2023年のリーディングサイアーランキングについて、過去10年の変遷および今後の展望を交えて考察を行うことができた。2024年も動向を見守っていく。