概要
スピーカーのクロスオーバーネットワーク設計をVituixCADというツールを用いて行ってみたところ、ネットワーク設計作業に集中でき、非常に有用であることが分かった。
背景と目的
最近、久しぶりにスピーカーエンクロージャーの製作をしようと考えている。検討課題の1つとして、クロスオーバーネットワークの設計がある。想定しているシステムは2wayであり、候補となるユニットに対してネットワーク部品定数のあたりをつけておきたいと思っていたところ、クロスオーバーネットワーク設計に使用できるVituixCADというソフトウェアがあることを知ったので、使ってみる。
詳細
0. VituixCAD概要
VituixCADは、フリーウェアである。(ただし、寄付も募っている模様)
youtube上には、解説動画があり、参考になりそうだ。
個人ブログ等にも情報があり、参考になる。
https://blog.goo.ne.jp/4g1g4g0/e/cee29bc37d681617107ffe4ee2491cf9
これらの情報を参考にしながら進める。
1. ダウンロード~インストール~起動
こちらから。VituixCAD2_setup.exeというものを落とした。WindowsPCなので、落としたインストーラをたたくだけ。以下の通り、無事起動した。
2. お試し設計
2.1 設計条件
ウーファーとミッドハイによる2wayとし、以下のユニットを使用することとする。
- ウーファー: DC200-8(20cm、Dyaton Audio)
- ミッドハイ: DCU-F081A(8cm、ParcAudio)
ネットワークの構成は、ウーファー側を2次LPFとミッドハイ側を2次HPFとする。
2.2 スピーカー特性データの読み込み
最低限設計に必要な特性データは、音圧および位相の周波数特性とインピーダンス特性である。VituixCADでの読み込み方法としては、
- ①SPLの数値データファイルを読み込む
- ②SPL Traceという機能を用いて、特性図画像から数値化し、それを読み込む
という2つの方法がある。
DC200-8は、メーカーWebサイトから数値データがダウンロードできるため①の方法でよい。
DCU-F081Aは、メーカーWebサイトに音圧周波数特性の画像しかないため、それを読み込むことにする。
まず、メーカーWebサイト上の画像をスクリーンキャプチャし、画像ファイルとして保存する。次に、Tools>SPLTraceと進み、画像ファイルを読み込んで、グラフの外枠にガイドを合わせてTraceボタンを押し、何度か特性線上をクリックすると、クリック位置と近い色の範囲が選択されることで、特性線が自動で選択される。うまく選択出来たら、エクスポートすればよい。
位相特性について
SPL、インピーダンスともメーカーサイトには位相特性が存在しない。しかし、このSPL Trace機能では、自動で算出されるようだ。正しいのかどうか?という点だが、
音の位相特性ついては、こちらに、
振動板に かかる力(ボイスコイルに流れる電流に比例する) に対し振動板の変位に遅れから生じるが、これは理 論的に容易に求めることが出来る
という記述があり、この理屈そのままかはわからないが理論によって算出されているものと思われる。詳しくわからないので後で調べてみたい。
インピーダンスの位相特性は、そのインピーダンス(絶対値)の特性を持つ電気回路をモデル化し、位相特性を算出しているように見える。
特性線がうまく選択できない場合
なお、今回使用したDCU-F081Aに関しては問題なかったが、試しにほかのユニットについても読み込ませてみたところ特性線がうまく選択できない場合があった。そのような場合は、読み込ませる前に、画像編集ソフト等で画像のコントラストや色合いを調整しておくとよい。また、複数の特性線が重ね書きされている場合は、少し面倒だが不要な線を消すといった作業も必要だ。
2.3 バッフルステップ特性の算出
次に、バッフルステップ特性を算出する。スピーカーユニットをバッフルに取り付けた際には、エンクロージャーの側面~後方へ回折しやすい低域に対して回折しにくい高域のほうがバッフル正面の聴取位置において音圧が高くなる現象である。バッフルの大きさ、取付位置、マイク位置によって音圧周波数特性が決まる。VituixCADでは、
Tools>Diffractionという機能を用いて算出可能。実際の聴取距離としてありそうな条件で各ユニットごとに算出した。
- バッフルサイズ: W25cm×H90cm
- マイク位置: 高さ95cm、距離2.25m
なお、このツールは床からの反射や後方の壁からの反射も考慮することができる。ただ、エンクロージャー設計の時点で、特定の設置環境を想定しなくてもいいと思うので今回は使用しなかった。
2.4 バッフルステップ特性の合成
バッフルステップ特性を、SPL特性と合成する。合成には、Tools>Calculatorという機能を使用する。それぞれSPLとバッフルステップ特性を読み込み、計算方法としてMultiply A*Bを選択した。最後にCalculate & Saveボタンを押してファイル出力する。
2.5 ネットワークの作製とシミュレーション
最後に、いよいよ特性データを用いてネットワークをシミュレーションする。
ネットワークの作製は、部品を配置して配線するだけなので、全く迷いなくできた。特性値の入力もあらかじめ画面下部に窓があるので、非常に簡単だ。
仕上がった特性は以下。数100Hzのクロス帯域周辺で概ねフラットな特性が得られている。1-2kHz付近のディップ、7kHz付近のディップ、16kHz付近の大きなピークは、DCU-F081Aの素特性としてあるので、何もしていない。
ネットワーク図に、DCU-F081AにつながるLCR並列回路がグレーアウトしているが、これは 16kHz付近の大きなピークを消そうか試行錯誤した跡である。部品をショート/オープンにして部品の有無による特性変化をすぐに確認したりもできて、非常に良い。
2.6 ツールの感想
操作に慣れるのに、ほとんど時間を要すことはなかった。結局、ネットワークを作製したり定数をいじるのにそれなりに時間を使ったのだが、私が本来やりたいと考えていたことはまさにこの試行錯誤である。非常に有用なツールであると実感できた。
まとめと今後の課題
スピーカーのクロスオーバーネットワーク設計をVituixCADというツールを用いて行い、音圧周波数特性が概ねフラットになる定数のあたりがついた。