概要
フロントスピーカーの設計を行った。
背景と目的
前回、イネーブルドスピーカーのエンクロージャーの組み立てが終わった。今回、いよいよメインの仕事となるフロントスピーカーの設計に入る。
詳細
0. 目標仕様
構想検討に基づき、改めてまとめる。
- 40Hz程度までの再生能力があること
- 高さ90cm程度のフロアスタンディング型のエンクロージャー
- 木目を基調とし、インテリアにマッチする外観
1. ユニット構成
低域再生能力の目標を満たすため、帯域分割方式、ユニットの入手性、所要コスト等様々な観点から考慮した結果、以下とすることにした。
- 帯域分割数: 2way
- ウーファー: DaytonAudio DC200-8
- ミッドハイ: ParcAudio DCU-F081A
1.1 帯域分割数
2wayとするが、一般によくある構成である数kHzで帯域分割するのではなく、数100Hz程度で分割する。これは、自分の経験上
- 小口径ユニットが得意とする定位の良さを生かし、できるだけ広い帯域を受け持たせる
- 小口径ユニットの苦手な低域をウーファーで補う
という構成が良いと思っているからだ。 クロスオーバー周波数等の詳細は、後述。
1.2 ウーファー
DaytonAudio DC200-8は、20cm口径で、f0=29Hzとあることから、バスレフで使う想定でエンクロージャー設計がおかしくなければ40Hz程度までの再生には問題なさそう。また、周波数帯域上限は2kHz程度で、今回の用途では十分。f特を見る限り、使わない予定の1kHz以上の帯域をしっかり落としたほうがよさそうだ。価格は、ここのところの円安で、昨年の前半よりも価格が上がってしまったものの1本1万円程度なので高すぎなくてよい。 私はDaytonAudioのユニットを使ったことがないが、自作派には人気があるようだ。ネット上の製作例も多く、まずまず評判がよさそう。
1.3 ミッドハイ
ParcAudio DCU-F081Aは、8cm口径のフルレンジ。今回、ミッドハイ(数100Hz~20kHz)をカバーするユニットを探していたのだが、基本的に使う人がいないため、そのようなユニットはほぼ皆無だ。カーオーディオ用でカロッツェリアTS-S062PRSというものがあるが、さすがに価格が高すぎる。なので、自作向けに品種が豊富な小口径のフルレンジで、低域は出なくても、高域まで伸びているユニットを探してこのユニットに行き着いた。1本4000円程度と手ごろな部類に入る。DC200-8とは能率が合うが、バッフルステップを考慮すると実際には少しこちらの能率が高くなるので調整は必要となりそう。f特は、2kHz付近のディップと10kHz以上のピークが少し目立つ。
なお、ParcAudioのユニットも私は今回初めて使う。どのような音がするのか楽しみだ。
2. エンクロージャー
ユニットの特性値を基に、エンクロージャーの基本設計値を以下のようにした。
- ウーファー部
- 方式: バスレフ
- 容積: 34L
- ポート共振周波数: 約33Hz
- ミッドハイ部
- 方式: 密閉
- 2.4L
なお、この値は上記の検討の値と基本的に同じ。ウーファー部のシミュレーション上の特性を抜粋すると以下。茶色の線の100Hz以下がエンクロージャーに入れた低域の最終特性。40Hzで少しだけレベルが下がり始めているが、目標はクリアとする。 バスレフダクトの形状はエンクロージャー寸法に合わせて調整する。
3. クロスオーバーネットワーク
基本的に、以下の記事の内容である。
ウーファー、ミッドハイとも2次のフィルタとし、クロスオーバーは約600Hz、ミッドハイは逆相接続とする。
10Ωと2.2uFが3mHに並列で入っているが、これはDC200-8が持つ2kHz付近の盛り上がりをしっかり切るため。使用するコイル(3mH)は、コアコイルとする。その理由は、
- 3mH品の空芯で巻線抵抗を含んでシミュレーションを行うと、コアコイルに比べてLPFの肩特性が鈍ってしまい、良い特性を得るには太い線材を用いた非常に高価なものを選ばなけれならない
ためである。コンデンサは、容量がそれなりに大きいので電解コンデンサが有力。
- ミッドハイ部
14Ωはウーファーとレベルを合わせるためのアッテネータ。バッフルステップを考慮しているため、かなり大きめの減衰を持たせているが、実際には試聴しながら追い込むことになりそう。 10kHz以上の大きなピークを対策するか悩んだが、もともとこの特性でフルレンジとして成り立っているユニットであるし、音として出ていないよりは出ていた方が後で調整が効くので結局スルーとした。(ユニット直前の47uFをショートして無効化している)
こちらも使用するコイル(1.8mH)は、コアコイルとする。理由も同様。
4. 外観仕様
他のスピーカーの外観仕様と共通化させ、必要な容積を持たせるように検討した結果、以下のようになった。
- 材質
すべてMDFとする。バッフル面を(12+9)の21mm厚、他は12mm厚を用いる。天面と側面は2.5mm厚を貼る。
外形寸法
- 高さ: エンクロージャー877mm、バッフル面側スタンド部含め927mm
- 横幅: バッフル面239mm、後面138mm
- 奥行: バッフル面から後面まで307mm
外装
他のスピーカーと共通の木目柄カッティングシートを用いる。
- バッフルの左右端
以下の記事に基づき半径18mmの丸めを行う。
- バッフル上端
他のスピーカー同様はカッティングシートの施工性を考慮し、斜めカットとしている。
バスレフポート
- 所定の共振周波数を満足する開口面積と長さを計算し、以下としている。開口部は空気の流れをスムーズにするためわずかに丸め処理をするつもりだ。
- 開口: 40mm×83mmの角型
- 長さ: 20.2cm
側面
- 以下の記事に記した通り、回折の低減と意匠性を考慮してラウンド形状とした。曲線形状は直径800mmの円弧である。
- ラウンド形状の製作には、上記記事で示した細切りの板を接合していく方法で行う。細切りの板の幅は27mm。内部の構造としては、以下のようになる。
- 空気室の構造
ミッドハイはエンクロージャー最上部に密閉された空気室を持ち、それ以外はウーファー用の空気室である。
- 内部の補強
エンクロージャー寸法自体が大きいのでウーファー近くと、そのほかにもう1か所配置する。ただし、補強は出来上がってみてから不満が出る可能性もあるので随時追加することも考える。そのため、内容積は34Lよりも少し大きめである。
- 後面
スピーカーターミナルとクロスオーバーネットワーク基板取り付けを考慮して、一部を取り外し可能にする。取り外し可能部分は金属調のカッティングシートでわかりやすくする。
- スタンド部
4隅に張り出した足を持つ形状とし、バッフル面側よりも後面側の足を低くしてエンクロージャー自体を後傾させる。これは、重量が集中しているバッフル面側から重心をやや後ろに移動させて安定させることと、少しだけ上振りしたほうが聴取位置における耳の高さに合いやすいため。
なお、足の詳細な形状については実はまだ詳細を詰めていないため変更の可能性があるが、基本構造はこれでいくつもりだ。
まとめと今後の課題
フロントスピーカーの設計が完了した。次回、製作に移る。